毎日まじめに暮らしていて、
でも、ときおり、ふと不安になる。
生きているのが、しんどくなる。
そんなときは、心に響く何かが、欲しくなりませんか? 長見良のマジックを、見に行きましょう。

つかの間のひととき、だけど魔法のようなひとときが、
人生に、ちいさな明かりを灯してくれるかもしれない…。

著名なマジシャンだった、いまは亡き祖父をもつ、北條英明
大人になったら、祖父のような魔法使いになりたいと思っていた。
でも、現実は……セキュリティ会社のサラリーマン。
自分は毎日何をしているのだろう、という思いにとらわれながら、
なかばあきらめたように、仕事に没頭する日々。
そんな北條が、営業先のカジノで出会った少年、長見良
彼の神業のようなカードさばきに、魅了させられる北條。
良は、まだ中学生。偶然にも彼は、祖父の教え子であった。

良はマジックの天才で、度肝をぬくような技を披露してくれる。
北條は、良の両親を説得し、自分がマジシャンとして育てあげることを決意する。

天才自身と天才をサポートする側。
両方の思いが交錯しつつ、進む物語です。
北條は、一流大学を出てサラリーマンになっていて、不自由のない生活をしているけれど、
そんな自分を100%肯定はできない。
良を世界の舞台に立たせることを目標にすると、彼の毎日はにわかに輝きはじめます。

かたや、華麗な技を披露する良の現実は、魔法のようにうれしいサプライズに満ちたものではありません。
マジックの技は天才のようでも、彼は難読症という学習障害の一種を抱えていて、
読み書きのレベルが非常に低いというハンディを背負っているのです。
(北條の祖父は、そんな良が生きていけるように、マジックの技を教えこんだのかもしれないのですが…)
良は、学校ではイジメの標的になり、心ない大人からはバカにされます。
ですが、自分にまとわりつく不愉快な現実を、瑣末なこととしてあきらめ、
愚痴をいって発散したりせず、ひたすら自分自身と語ることで解消していくのです。

天才、かつ異端。
良は、だれよりも自由に見える。
けれど、途方もなく孤独。
そんな自分を、潔く認めている少年。
彼の孤独な魂のさすらいが、華麗なマジックの技に命を吹き込み、
そのマジックが産む観衆の驚きや感動が、彼の心の支えとなる。
そのとき、技はただの技術ではなく、見るものの心をどこか別の世界に惹きこむ魔法となるのです…。

一番になるとか、世界の檜舞台に立つとか、
そういうことじゃ、なく。
自分が好きなことが、自分を支えている。
そのことが、どんなに素晴らしいことなのか…。
良を見ていると、なんだかわかるような気がしてきます。

もし、あなたが、今。
しんどいときを迎えているなら、良のマジックを見るために、この本を手に取ることもよいかもしれない。
作品中のマジックの場面はとても美しく、迫力いっぱいです。
絵を目で追うだけで、ショーを観ているほどの興奮と満足感を覚えます。
しかし、彼のマジックは、ショーだけではありません。
彼が歩む道、出会う人々、起きる事件。
そして、彼が語ることばのひとつひとつが、奇跡のマジックのように美しい。
あなたの心にも、響く何かがあるはずです。

既刊3巻まで。
才能をもつものを発見した人々が、静観しているわけではないと思うので、今後、良には困難がたくさん待っているのだろうと思います。
それでも……自分の道を歩いてほしいなぁ。
つい、そう祈ってしまう物語です。